領収書の電子化について(3)~給与計算に関する電子帳簿とは

今回も、前回に引き続き、TAX(税金)ライターとしてご活躍の阿部正仁氏に「電子帳簿について」解説していただきます。

過去の記事は以下からご覧ください。
領収書の電子化について(1)~中小企業が知っておきたい電子帳簿の概要
領収書の電子化について(2)~会計における電子帳簿とは

領収書の電子化
会計だけでなく給与計算も書類を電子媒体で保存することが認められています。特に中小企業の場合、会計と給与計算を兼任するのが普通であり、給与計算の電子帳簿についての知識はぜひとも押さえておきたいところです。そこで、電子媒体で保存するためのルールと導入するポイントについて解説します。

電子媒体で保存できる給与計算に関する書類

給与計算に関する書類を電子媒体で保存できるのは、おもに次の3種類です。

  1. 給与明細書や源泉徴収票など従業員へ交付する書類
  2. 賃金台帳など会社で保存する書類
  3. 年末調整に関する書類

従業員へ交付する書類を電子媒体で保存するためのルール

給与明細書や源泉徴収票はプリントアウトして従業員へ交付するのが一般的でしょう。しかし、紙媒体に代えて、電子媒体での交付と保存が認められています。それでは、具体的なルールを見ていきましょう。

1.電子媒体で交付することについて事前に従業員の同意を得る
給与明細書や源泉徴収票はプリントアウトして、紙媒体で交付するというのが基本です。電子媒体で交付することは例外であるため、税法上では事前に従業員の同意を得ることが求められます。実務上では、従業員に同意書を書いてもらいます。口約束では、後々のトラブルにつながりかねないからです。もちろん、従業員から同意を得るのは最初の1回だけです。同意書については4で詳しく説明します。

2.給与明細書や源泉徴収票を従業員へ電子媒体で交付する方法
電子媒体で交付する方法は次の通りです。

【電子メールを用いる方法】
給与明細書や源泉徴収票をPDFファイルなどで保存し、電子メールに添付して従業員へ交付します。

【従業員が閲覧できるようにする方法】
クラウド上や社内LANで従業員が自分の給与明細書や源泉徴収票を閲覧できるようにする方法があります。実際に交付する作業が省略できます。

【磁気媒体を用いる方法】
MOやCO-ROMなど磁気媒体に給与明細書や源泉徴収票を記録して、従業員へ交付する方法があります。

3.給与明細書や源泉徴収票はいつでもプリントアウトできる体制にする
「紙媒体の給与明細書や源泉徴収票がほしい」と求められたら、会社は従業員の求めに応じる義務があります。特に医療費控除などの確定申告をする際には、基本的に電子媒体の源泉徴収票は添付資料として認められません。

4.同意書の内容
次の内容を記載した電子媒体の同意書に「電子交付について承諾する旨、承諾日、従業員の氏名」などを入力してもらいましょう。もちろん、紙媒体で配布して従業員に記載してもらう方法もあります。

【電子媒体で交付する書類の名称】
おもに「給与明細書」と「給与所得の源泉徴収票」が挙げられます。

【電子媒体の種類や具体的に交付する方法】
電子媒体で交付する方法に応じて、次の内容を記載しましょう。

交付する方法 記載内容
電子メールを用いる場合 電子メールで送信する旨、メールアドレス など
従業員が閲覧できるようにする方法 データを閲覧に供する旨、給与明細書や源泉徴収票のデータを掲載するホームページアドレス、閲覧方法 など
磁気媒体で交付する方法 CD-COMなど交付する媒体の種類

【ファイルへの記録方法】
XML形式、PDF形式、暗号化してファイルに記録する旨およびその複合化方法などを記載します。

【交付予定日】
給与明細書なら「給与支給日に交付する」、源泉徴収票なら「毎年12月25日に交付する」など、具体的な交付予定日を記載します。

【交付開始日】
交付開始日を記載します。

【その他参考となる事項】
特に記載しなくても差し支えありませんが、「(従業員の)求めに応じて紙で交付することができる」など明記して、電子交付についての安心材料を記載するのが有効でしょう。

5.従業員から紙媒体での交付に切り替えることを求められたら
会社は従業員の求めに応じる義務があります。仮に従業員から紙媒体での給与明細書や源泉徴収票の交付を求められたら、電子媒体で交付することは認められません。

6.電子媒体の給与明細書や源泉徴収票は画面表示をできるようにする
給与明細書や源泉徴収票は画面表示ができ、交付を受けた従業員が肉眼でデータを確認できるようにする必要があります。たとえば、文字がコード化されているなど、画面上でデータが確認できない場合は、画面表示の条件を満たしません。

賃金台帳などの書類を電子媒体で保存するためのルール

会社は労働基準法で定められている保存すべき書類を紙媒体に代えて、電子媒体で保存することが認められています。具体的なルールは次の通りです。

1.電子媒体での保存が認められている書類の範囲
支店または店舗単位で次の書類を電子媒体により保存することができます。おもな範囲は次の通りです。

【賃金台帳】
労働基準法で定める賃金台帳は次の内容が記載されていることを指します。

  • 氏名
  • 性別
  • 給与計算期間(例 20日締めの給料なら○月21日~○月20日)
  • 労働日数
  • 労働時間数
  • 残業時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数
  • 基本給、通勤手当など賃金の項目とそれぞれの金額
  • 給与の一部を控除した金額

【労働者名簿】
会社は次の内容を記載した労働者名簿を保存しなければなりません。

  • 性別
  • 住所
  • 従業員を雇用した年月日
  • 退職年月日および退職理由(解雇の場合は解雇理由も含む)
  • 死亡退職の場合は退職年月日および死亡原因

※従業員が30人以上の会社に限り、従事する業務の種類の記載が必要です。

【労働条件を明示した書類】
従業員と雇用契約を結ぶ場合、事前に次の条件を提示する必要があります。

  • 契約期間(正社員のように「期間の定めなし」を含む)
  • 従事する業務
  • 就業場所
  • 始業時間および就業時間
  • 残業の有無
  • 休憩時間および休日
  • 給料の金額
  • 健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の有無

【労働関係に関する重要な書類】
雇用契約書や出勤簿などが挙げられます。

【従業員の健康診断の結果表】
会社は従業員の健康を管理する義務があるため、健康診断の結果表を保存する義務があります。

【社会保険に関する書類】
健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険に関する書類のことを指します。

2.保存するルール
電子媒体の書類を画面上に表示でき、労働基準監督署や税務署の職員が肉眼で確認できることが条件です。また、これら職員の求めに応じてプリントアウトできるようにする必要があります。電子帳簿保存法とは違い、具体的なルールは設けられていません。

3.保存方法
給与計算ソフトへ入力したり、紙媒体の書類をスキャナー保存したりする方法が挙げられます。

年末調整に関する書類

年末調整に関する書類は次の2つに区分できます。

  • 従業員から預かる生命保険料控除証明書など紙媒体の書類
  • 「給与所得者の扶養控除等申告書」と「給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」など会社または従業員が作成する書類

両者では電子媒体で保存するルールが異なります。

1.従業員から預かる紙媒体の書類
電子帳簿保存法のスキャナー保存と全く同じルールであり、一般書類です。預かった書類をスキャナー保存して、タイムスタンプを付与します。その後、相互けん制により本人と別の人が画像と紙媒体の書類を突き合わせて、定期検査による最終チェックを得て、保存または破棄を選択することになります。

2.会社または従業員が作成する書類
事前に税務署への申請が必要ですが、電子帳簿保存法のルールとは次の点で異なります。

【申請期限】
電子帳簿保存法は電子帳簿を導入する日の3カ月前ですが、年末調整の場合は還付金を計算する直前までに申請すれば大丈夫です。

【税務署長などの承認は不要】
電子帳簿保存法は税務署長などの承認を得られなければ電子帳簿の導入はできませんが、年末調整の場合は申請すれば即承認されます。

【保存方法を選択する】
電子媒体で保存する方法について次のいずれかを選択します。
・クラウド上やサーバーなどでの管理する
・CD-COMなど磁気媒体に記録する

【本人確認ができる措置を講じる】
紙媒体と同じように電子媒体でも作成した書類が従業員本人のものであることを確認できる状態にして会社へデータ送信する必要があります。その手段として、次のいずれかを選択することになります。
・従業員本人がマイナンバーカードを用いて電子署名をする
・会社は従業員ごとにID(識別番号)とパスワードを設定する

3.一人別源泉徴収簿は作成する必要なし
年末調整に一人別源泉帳簿を用いる会社は多いですが、あくまでも従業員の所得税の計算資料にすぎません。そのため、電子帳簿の対象から外れています。

税務調査で従業員の所得税の計算過程を知るため、毎月の給与の金額が記載されている必要があります。一人別源泉帳簿がその役割を果たしますが、しかしそれは賃金台帳で代用できます。

したがって、無理して一人別源泉帳簿を作成する必要はありません。また、給与計算ソフトへ入力すればプリントアウトできますが、それも不要です。

給与計算で電子帳簿を導入するポイント

そもそも給与計算は会計と違って、「確定申告の直前にまとめて行う」など先延ばしにすることが許されません。 しかし、給与明細書をプリントアウトして封に入れる作業は手間がかかり、それに伴う人件費は費用対効果の小さい費用です。そのため、給与計算で電子帳簿を導入する意味があります。それでは、導入するポイントを見ていきましょう。

目的意識を明確にする

電子帳簿の導入で事務的手間を省くのはもちろん、給与計算は先延ばしや計算ミスが許されません。だからこそ、毎月の給与や年末調整のデータを正確に入力することに集中できる体制づくりが大切となってきます。

給与明細書や源泉徴収票の電子交付が給与計算の合理化には必須

特に給与明細書を紙媒体で交付する手間は従業員の人数に比例します。たとえば、従業員が5人と10人の会社を比較すると、作業量の違いは倍となります。また、給与計算ソフトの指定用紙を用いるとなおさら手間がかかります。データを指定用紙の枠内に印字するために、印字位置の調整が大変だからです。たとえば、「給与明細書の印字位置を右に何ミリ移動させようか」など細かい微調整を毎月行うことになります。

そのため、給与明細書や源泉徴収票を電子交付する方向へ持っていくことの意味があります。まずは確実に従業員の同意を得ることが電子帳簿の導入のスタートでしょう。そこで、説得する手段として、従業員にとってのメリットを紹介します。

1.給与明細書が自宅で復元できる
たとえば、従業員が住宅ローンを申し込むとします。当然、銀行は収入証明書の提出を求めてきます。申込時期年初なら源泉徴収票がその従業員の収入証明書になり得ますが、仮に申込時期が7月の場合、直近の給与明細書の提出を要求してきます。そのとき、給与明細書が紙媒体で交付されている場合、再発行を会社に依頼しづらいでしょう。その点、電子媒体で交付を受けている場合は、PDFファイルを自宅でプリントアウトすれば済む話です。

2.給与明細書の再発行が依頼しやすい
そもそも従業員が給与明細書の再発行を依頼しづらい原因に、会社側の事務的手間を察知している点が挙げられます。確かに紙媒体で交付する場合は、給与明細書の発行に手間がかかります。特に給与計算をアウトソーシングしている会社は、再発行を外注先に依頼しなければなりません。それでは、従業員の再発行の求めにタイムリーに対応することは難しいです。

しかし、給与明細書を電子交付している場合、事務的手間は従業員への電子メールに添付ファイルを送信するだけです。仮に給与計算をアウトソーシングしている場合でも同様の手間で済むため、タイムリーに対応してくれる可能性が高いです。

3.退職者の源泉徴収票を送付する手間が省ける
年末になると再就職先へ源泉徴収票を提出するため、退職者が会社へ発行を依頼するケースはよくある話ですが、辞めた会社へ電話を入れるのは心理的ハードルが高いです。そのハードルを少しでも下げるために事務的手間のかからない電子媒体での交付が有効です。

会計に関する電子帳簿の導入よりもハードルが低い

会計に関する電子帳簿は細かいルールがたくさんあり、税務署への申請と税務署長などの承認が必要です。しかし給与計算の場合、従業員から預かる年末調整に関する書類を除いて、手続が簡単です。たとえば、賃金台帳を電子媒体で保存するとします。税務署への手続は不要であり、給与計算ソフトへ入力してデータを保存するだけで済みます。

また、賃金台帳など会社で保存する書類は、たとえば社会保険に関する書類をスキャナー保存しても、検索機能やタイムスタンプを付与するなど電子帳簿保存法で求められている条件を満たす必要はありません。ただ、電子媒体で保存するだけで済みます。

以上のように、給与計算に関する電子帳簿の導入は会計よりもハードルが低いのです。

紙媒体または電子媒体で保存するかどうかを吟味する

電子媒体は事務的手間が省けて、保存スペースを必要としないため、給与計算の合理化に向いています。しかし、電子媒体の書類はトラブルに陥ったとき、紙媒体の書類と比較して、不利な取り扱いを受けてしまいます。

たとえば、勤務不良の従業員を合法的に解雇したとします。それを合法的と裏づけるためには証拠として認められる書類を用意しなければなりません。そのため、雇用契約書や査定表などを安易に電子媒体で保存すると、解雇理由が証明できず、会社側が不利になってしまいます。

要するに証拠として必要な書類は紙媒体で保存しておくほうがいいでしょう。また、人材派遣業など多くの雇用契約者がいる場合、雇用契約書が膨大になる場合はマイクロフィルムで保存する方法に代えても、証拠として認められます。

おすすめの給与計算ソフト

使用している会計ソフトと同じメーカーの給与計算がおすすめです。

  • 弥生給与
  • 人事労務 freee
  • MFクラウド給与

次回が最終回になります。
まとめを行いますので、どうぞお楽しみに!

著者:阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。