領収書の電子化について(1)~中小企業が知っておきたい電子帳簿の概要

中小企業で業務のIT化を進める際、「領収書は紙で保管しないといけないのだろうか」といった声をお聞きします。
そこで、会計事務所に10年間勤務し、TAX(税金)ライターとしてご活躍の阿部正仁氏に、電子帳簿についてご説明いただきました。
4回にわたって連載形式でご紹介していきます。

領収書の電子化

はじめに

電子帳簿による保存が中小企業に浸透しているとは言えません。しかし、事務作業に手間やコストをかけたくないため、電子帳簿に興味のある経営者、経理担当者は多いでしょう。

それでは、事務作業にかかるコストとは何でしょうか。おもに2つあります。それは人件費と機会損失です。

1. 人件費
たとえば、増販により業務量が拡大したとします。その場合、従業員を増員するという選択肢があるでしょう。ところが、事務作業を合理化できれば、事務員の人数を減らせるため、販売職など別の部門へ配置転換することが可能です。つまり、新規採用に係る費用や、増員による人件費の増加が回避できます。

また別の例として、事務員のうち誰かが退職したとします。事務作業が合理化できていなければ、別の従業員を補充し、人件費を負担しなければなりません。しかし、事務作業の合理化ができていれば、従業員が減っても事業活動に支障をきたさないで済みます。現在は人手不足で新規の人材採用も容易ではないため、この効果は大きいでしょう。

2. 機会損失
そもそも機会損失とは、何かを行動しないことにより失われた利益のことを指します。たとえば、アポイント営業を実施すれば、100万円の利益が見込めるとします。しかし、事務作業に時間がかかり、見込み客へ営業の電話ができない結果、見込みの利益を獲得するチャンスを逃してしまいます。その利益100万円が機会損失です。

特に経営者が営業から事務作業まで一人で行う、一人親方の会社に当てはまるのではないでしょうか。

以上のように「目に見えるコストである人件費」と「目に見えないコストである機会損失」の2種類のコストが存在します。大企業と違って資金繰りや従業員の人数に余裕のない、中小企業こそ電子帳簿を導入することで得られる効果は大きいでしょう。

電子帳簿の導入による経営効果

仮に電子帳簿を導入しないことで、事務作業員2人が月10時間ずつを余分に費やすとします。時給1,000円とした場合、コストは「10時間×1,000円×2人=月額2万円」です。同額の利益を獲得するために必要な月商と年商は売上高営業利益率(売上高に対する営業活動で稼いだ利益に占める割合)に応じて次の通りです。

想定される業種例 売上高営業利益率 月商 年商
卸売り業 1.6% 125万円 1,500万円
小売業 4.3% 46万5千円 558万1千円
製造業 4.4% 45万4千円 545万4千円
建設業 3.0% 66万6千円 800万円

月額2万円のコストを賄うための月商や年商を得るための労力を考えると、事務作業のコストは割に合わないことがわかります。

合理化可能な事務作業の内容

まずは電子帳簿の導入により、合理化できる事務作業の内容を見ていきましょう。

1. 領収書をスクラップブックに貼る作業から解放される
そもそも領収書をスクラップブックに貼り整理するのは、税法で定められているためです。しかも、日付順など領収書の貼り方には規則性が求められます。しかし、電子帳簿を導入すれば、領収書をスクラップブックに貼る作業から解放されます。

2. 会計ソフトへの入力作業が減少する
中小企業の場合、領収書や請求書などを参照して、会計ソフトへ手入力するのが一般的です。しかし、電子帳簿の導入により、領収書や請求書などのデータが自動的に会計ソフトへ入力されます。

3. 給与計算の手間が省ける
一般的には電子帳簿というと会計の合理化をイメージするでしょう。しかし、中小企業の場合、経理部門が給与計算を担当し、給与明細書の印字や封詰めを行い、時間を費やします。しかも、数カ月分をまとめて行うことは許されません。つまり、毎月定期的に実施しなければならない業務なのです。これらの業務が電子帳簿の導入で不要になり、給与計算のみに専念できます。

一方、電子帳簿の導入で増加する業務や電子保存をする上での注意点が存在します。

1. 増加する業務
領収書をスマートフォンで撮影して電子保存するスキャナー保存の書類の量が多い場合、確認者や最終チェック者による紙媒体の書類と画像のチェック作業が増加します。そこでスキャナー保存をする書類の量を増やさないことが大切となってきます。

2. 注意点
電子保存したデータは劣化する可能性があります。たとえば、電子保存した領収書が10年後にデータを正しく読み取れる保証はありません。また、電子保存していたデータがサーバーの故障などで消失するリスクがあります。それを回避するためには、データをバックアップするなど複数個所に保管することがポイントです。

電子帳簿の導入の難易度は低い

電子帳簿の導入は初めてだと難しそうに見えますが、ほとんどは「会計ソフトなどの汎用ソフト」「スキャナーなどの機器」「顧問税理士」が解決してくれます。しかも、費用対効果の小さいコストを下げるための仕組化に繋がります。

電子帳簿の導入を妨げる原因

中小企業に電子帳簿が浸透しない原因は、中小企業の実情に即した情報が少ない点です。多くの情報は、経理部や総務部などのセクションが細分化されている大企業向けの内容となっています。しかし、中小企業は会計と給与計算を兼任するのが一般的です。そこで、中小企業の実情に即した電子帳簿について解説します。

中小企業版電子帳簿の全貌を解説する

そもそも電子帳簿と電子帳簿保存法はイコールというイメージが強いです、しかし、電子帳簿保存法は経理業務の2本柱である会計と経理業務のうち前者について定めた法律です。実際は「e-文書法」を頂点に会計や給与計算などについて細分化されています。そのうち給与明細書の電子化など給与計算についての電子保存は所得税法など電子帳簿保存法とは別の法律が存在します。そのため、中小企業が電子帳簿による経理の合理化を行う場合、会計と給与計算の2本柱で考えることが大切となってきます。

電子帳簿のアウトライン

まずは電子帳簿について、会計と給与計算のアウトラインを見ていきましょう。

1. 会計
会計帳簿書類の電子保存は電子帳簿保存法で網羅されています。ほとんどが汎用ソフトやスキャナーなどの機器で解決できます。また、電子帳簿の管理方法については運用規定を定めることが義務付けられていますが、作成は税理士にお願いすることが可能です。つまり、中小企業が電子帳簿の導入に必要な労力は限られています。

2. 給与計算
そもそも給与計算での電子帳簿のメリットはおもに次の3つです。

【給与明細書や源泉徴収票の電子交付】
従業員へPDFファイルをメールに添付して送信したり、サーバーやクラウドで本人が閲覧したりできれば、プリントアウトなどの手間が省けます。

【賃金台帳の電子保存】
わざわざ給与計算ソフトから賃金台帳をプリントアウトする必要はありません。また、紙で記入した賃金台帳をスキャナーで保存することも認められています。ただ、労働基準監督署や税務署の調査で閲覧できるようにすることは求められます。

【年末調整書類の電子保存】
年末調整書類を電子保存することが認められています。おもに次の紙で受け取る物はスキャナー保存ができます。

  • 前職の源泉徴収票
  • 生命保険料控除証明書
  • 地震保険料控除証明書
  • 住宅借入金等特別控除申告書
  • 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 など

中小企業だからこそ知っておきたい電子帳簿のデメリット

電子保存をすれば紙での保存は不要というのが一般的な考えといえるでしょう。中には紙ベースの書類を破棄することを奨励する記述があります。大手企業の場合、破棄するかどうかについては、トラブル時に必要な証拠書類となり得るかどうかの観点から顧問弁護士が判断します。しかし、中小企業には顧問弁護士がいないのが普通です。そのため、電子帳簿のデメリットである証拠書類とならないことを知った上で、破棄するかどうかを自分たちで適切に判断しないと足もとをすくわれかねません。

たとえば、不動産売買の契約書を電子保存したとします。万が一、相手とのトラブルが発生した場合、基本的に電子媒体での契約書は証拠として認められず、紙媒体の契約書と違って無力です。そのため、デメリットを知っておくことも電子帳簿を導入するときの大切なポイントとなります。

著者:阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。